酒害体験談

落とし穴

発表者 N・M
所属 板橋断酒会

 お陰さまで三月の本部例会にて十五段の表彰を女房共々受けることになります。本当に有難う御座います。これも偏に皆様のお陰と心より感謝申し上げます。
 本部例会の風景ですが、会の始まる前、ロビー、会場内、帰り際とか、大勢の方から「おめでとう」の声を掛けられたり、「握手」を交わしたりと、初段の表彰を受けた時の感動を思い出すことになります。
 断酒会を知らない人に「断酒して十五年になりました」と話すと、素晴らしい、立派だ、俺には絶対真似は出来ないという言葉が必ず返ってきます。しかし私は、この言葉に満足はしません。何故なら満足とは現状に不平、不満、不足がないことをいうのだから。ここで満足をしてしまうと、今後の成長(回復)もなく、夢も希望も持てなくなり、十六年目はおろか明日もなくなってしまうかも知れません。満足の裏には大きな落とし穴があるような気がします。
 入会間もない頃のことです。親戚以上にお付き合いさせて頂いていた伊豆の民宿のご主人が亡くなったと聞き、私は直ぐにでも駆けつけようとしたところ、女房から「先輩に相談してからでも遅くないでしょ」と言われました。先輩からは、電話、電報で済むのであれば二〜三年後にお線香を上げに行っても不義理にはならないと聞かされました。もしあの時に行っていたら今日の私は無いような気がします。
 また、入院中に大変お世話になった先輩から、一晩泊めてくれ、少しお金を貸してくれと頼まれた時、言われるままにしていたら思うとゾッとします。義理、不義理の裏にも酒魔が作った落とし穴があるのではないでしょうか。
 例会の中で
 ・過去に拘ることはないが忘れてはいけない。
 ・過去を許すことは出来るが決して忘れることは出来ない。
 このような言葉を何度か聞いたことがあります。私自身、真冬の日本海に裸で入り、タンスの引き出しに小便をし、長男の大手術の時には、お父さんの血液だけは使いませんと、先生に言われた人間です。過去を忘れないためにも、例会に通い、体験談を聞き、少しでも回復するよう努力していきたいと思います。
 女房から聞いたことですが、数年前に長女から「お母さんは、お父さんと結婚してよかったね」と言われたそうです。涙の出るくらい嬉しい話ですが、決して満足はせず、いたる所にある「落とし穴」に落ちないよう、皆様と一緒に強く、賢い断酒の輪を大きくしていきたいと思います。有難う御座いました。