酒害体験談

市原刑務所「断酒について考える会」に参加して

発表者 Y・T
所属 板橋断酒会

 市原刑務所で「断酒について考える会」をスタートさせたのは、平成二十年七月のことである。
 その発端となったのは、平成十一年東名高速での飲酒運転死傷事故、平成十八年の福岡市職員による飲酒運転死傷事故を契機とした厳罰化の要請である。それに伴い飲酒運転に対する社会の目が非常に厳しいものとなってきたことを契機として、平成十九年六月内閣府が中心となって常習飲酒運転対策プロジェクトチームを立ち上げた。 
 その中で再犯を防ぐには自助グループの協力を得ることが有効との答申がなされた。また、法務省の監獄法の改正で受刑者の教育が出来ることになった。
 以上のことから、法務省の矯正局より全断連に刑務所内での交通事犯者の教育プログラムへの参加協力要請がなされ、それに伴いグループミーティングへの参加と、断酒会の資料を提供することとなり、市原刑務所へは東京断酒新生会と千葉県断酒連合会が参加することになった。 
 現在、市原刑務所では、「断酒について考える会」の実践プログラムを行っている。 
 対象者は飲酒運転事犯で入所した者のうち、特に参加を希望する者(一回当り大体十人前後)。 
 指導期間は三ヶ月(全六回)、毎月第一金曜日が東京断酒新生会、第三金曜日が千葉県断酒連合会が担当し、グループミーティングに参加している。 
 オリエンテーションの自己紹介に始まり、酒害体験、出所後に予想される飲酒の危機的場面と、危機的場面の具体的対処方法のロールプレイを実践さながら真剣に取り組んでいる。教官が一生懸命なら受講者も背筋をピンと伸ばして聴いており、居眠りをしている者がいるアルコール病院の院内例会とは大違いだ。  

【全般的な感想】 
 市原刑務所は内房線五井駅より車で二十分程度のところにあり、入口には交通刑務所らしく『交通安全』の花のモニュメントがある。いわゆる周りを囲むコンクリートの塀はなく、金網のフェンスで囲まれているので、とても明るい感じがする。建物も殆どが二階建てであり、庭は芝生であり、花がいたるところに植えられている。 
 鍵で開閉しなければ入退所出来ないことを除けば、精神病院の病棟より余程明るく開放的な感じがする。ただし、受刑者達の規律は刑務所ということで厳しいことは言うまでもない。
 何度かグループミーティングに参加してみて、受講者達が一番不安に思っていることは、刑期を終えて一般社会に戻ったとき、果たして断酒継続が出来るかどうかということである。 
 私たち断酒会員は、酒を飲むことはないので飲酒運転をする恐れはないが、巷には酒が溢れている。受刑者が一般人に戻れば再飲酒の危機が待っている。受講者達がアルコール依存症者かどうかは分らないが、依存症者であれば断酒しない限り、再び飲酒運転事故を起こす恐れがある。 
 私はアルコール依存症者で、かつて飲酒運転常習者であった。ただ運良く事故を起こさなかっただけである。依存症者だけに酒に手を出す人の気持ちも良く分る。 
 交通標語にもあるように「飲んだら乗るな、乗るなら飲むな」これは運転者としての鉄則である。 
 「断酒について考える会」に受講した受刑者が一般社会へ出てから断酒を続け、二度と飲酒運転をしないことを祈るや切である。