酒害体験談

百日紅と彼岸花

発表者 T・H
所属 江戸川断酒会

 わが団地は建て替えのための第一期工事に入っている。既に私が住んでいる棟の南側は、隣の棟まで全て解体され工事用の鉄板で囲まれている。囲いの中の全ての樹木は跡形もなく取り除かれ、運び去られてしまった。
 お彼岸の前日、朝の日差しに誘われて工事現場の周りを観察しながら歩くと、まだ街路樹に百日紅が咲き続け、彼岸花も咲いていた。夏と秋が混じり合っているような光景に驚きでした。今年は特別なのか?毎年のことなのか…?私には分りませんが、「ヒガンバナは咲いても、まだサルスベリには花が残っています。さすが百日紅です」と単純に自分に言い聞かせています。
 二十三日のお彼岸の墓参りに行くと、道路が拡張されることで、お寺さんがなくなっていた。街道入口にあった花屋さんもなくなっていた。仕方なく墓石の周りの草取りを始めると、密集した雑草の日陰の中にひっそりと咲く彼岸花を見つけました。これ幸いと思い紅い彼岸花を根元から千切り、墓石に添えた。合掌しながら思ったことは、この花、葉っぱがないな…。どうやってここまで大きくなったのだろう?それと、日陰でも一生懸命咲いている彼岸花にも味わいがあると改めて感じたのです。
 今年のお彼岸は墓参りに来ないつもりでいました。その訳は、去年の墓参りに来た時のことです。偶然にも従姉と二十数年ぶりに出会ったのです。いつかはきっとこんなことが起きると覚悟はしていたのですが、現実に起きると戸惑いは隠せません。結果的に出合って良かったことと、悪かったことが半分半分です。一番大きなことは、幼児期から社会人になるまでの私を親のように育ててくれた長兄と義姉のことです。長兄の訃報は私には届きませんでした。それは当然の報いと思っています。その反面、今でも義姉が私の安否を気遣ってくれていることです。この一件を聞いた時、涙ながらに私は連絡先をメモして従姉に手渡しました。数日後、私の携帯電話に知らない番号から電話が入り、電話の相手から一方的にひどい言葉を浴びることになりました。相手は三つ年上の兄でした。兄が言うことに「オイH雄!今、何処で何をしているんだ?相変わらず酒飲んでるのか?こっちへ来て土下座をして謝ればすむことなんだぞ!」私は反論する気にもならずにただ一言「兄貴よ!酒飲んで電話をしているのか?」兄貴は無言のまま電話を切った。「来年はお寺さんの彼岸花を見ることも無いでしょう」