酒害体験談

「酔っ払い運転車の同乗者」

発表者 Y・K
所属 京王断酒会

 あれは私が二十九歳の夏の出来事でした。行き付けだった焼き鳥屋で知り合った建設会社で現場監督をしている同い年の人と意気投合して、一日とあけず毎晩二人で飲む様になりました。 普段は、その店だけで遅くまで飲み殆んど他の店には行くことがなかったのが、事件を起こしたその日は、飲み友達が「近くのスナックで知り合いのプロボーラーが待っているので、そこに飲みに行こう」 と誘われました。根っからの酒好きの私には断る理由もなく彼の飲み友達の待つスナックへ彼の運転する軽ワゴン車で向かいました。言うまでもなく友達は酔っ払い運転です。
 今は違いますが、自分が飲んで運転しても事故を起こさなきゃ大丈夫、この俺に限って事故を起こす訳がないと何の罪悪感も感じることなく真剣にそう思っていました。他人の人の運転で、 酔っ払い運転をしている人の車に乗った時も考えは同じです。いつもそうですが、どこへ行って飲んでも、とことんまで飲まなきゃ気のすまない方で、焼き鳥屋を出る時の私は、 今考えるとそうとうな千鳥足状態だったと思います。それに加えてスナックへ行っての飲みは駄目押しでした。友達も私も相当酔っ払いました。どちらかともなく家に帰ろうとスナックから席を立ち、 こともあろうに帰りの足は友達の運転する軽ワゴンです。私の記憶は友達の車に乗り込んだ時点で途切れていました。推測するに車が発車してから七、八分した頃だと思います。 「ガーン」とてつもない大きな音と衝撃が襲いました。助手席に座っていた私、運転していた友達、二人とも車を走らせながらしっかり熟睡していたのです。何が起きたのかと二人ともビックリです。 友達も私も車のフロントガラスに額を強打したため、顔中血だらけでした。かすかなエンジン音を響かせて止まっている車の前には私達の車にぶつけられ、前方右側部分が大破したタクシーが横付けされていました。 私も友達もその現状には唖然としました。さらにはタクシーの運転手さんが運転席で気を失い眠っているのを見た私と友達は、どちらかと言うともなく「やばいことをやってしまったんだね俺達は?」。 さらに、どちらかともなく「逃げようぜ」とお互いに首を振った後は、今にも止まりそうな息絶えだえの車で友達のアパートに向かいました。これからどうなるのか二人でビク付きながら時間が経つのを待ちました。
 アパートへ戻り二時間位経過した頃だったと記憶しています。友達が「父親に頼んで何とかしてもらう」と電話を掛けました。どういう根回しをしたのか詳しくは判りませんが、 友達の父親の力で我々の起こした交通事故「酔っ払い当て逃げ」は、しっかりと揉み消され闇に葬られました。やったことは勿論良くないことは、重々存じていますが、結果が誠に悪。「何事も無かったかの様に」 事故を処理してもらった数日後に私と友達は例の焼き鳥屋でビール片手に祝杯を上げていました。
 こういう馬鹿なことをやっていた私は、二十数年後には当然酒を止めなければならない人になって、今は酒を飲んでいません。飲まないことへの努力は大したことはしていません。ただひたすら断酒会に出続けています。 これからも体力の続く限り例会へ出ることを続けます。ありがとうございました。